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看護の環境と人間工学 第2版
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書籍概要
看護情報・看護業務にかかわる創意・工夫、看護にかかわる姿勢・動作・ボディメカニクス、看護にかかわる安全の考え方まで、看護の環境のなかに存在する人間工学の知識をまとめた参考書の改定版。初版で見受けられた読みにくい表現、図の説明が不十分な箇所を、誤解のないように修正・訂正し、説明を追加した。
書籍目次詳細
目次
第1章 人間工学のあらまし
人間工学とは
看護の人間工学をハードウエア面からみる
看護の人間工学をソフトウエア面からみる
第2章 看護の創意・工夫とアイデア創出
看護とアイデア
看護における創意・工夫とKJ法
看護に関するKJ法グループ分けの手法と実践例
第3章 看護にかかわる五感とセンサについて
人間の五感と機械のセンサのはなし
看護における五感の役割について
五感を補う医療機器のはなし
第4章 観察とフィードバック
物事が発生する原因と結果について
看護とフィードバックについて考える
第5章 看護のフィードバック制御とフィードフォワード制御
看護におけるフィードバック制御とは
看護におけるフィードフォワード制御とは
第6章 人間の構造と看護姿勢・動作
人間の動きは回ることが基本
人間の骨格と筋肉
看護姿勢・動作と力学の関係
第7章 看護動作を理解するための物理・力学
看護と圧力について
看護と摩擦について
看護と作用・反作用の法則について
重力と質量の違いについて
重心線とは
看護における支持基底面と姿勢の安定について
看護における慣性について
第8章 負担軽減のための基礎力学
看護にかかわるテコのはなし
看護の負担がわかる力のモーメントのはなし
第9章 ボディメカニクスとは何か
身体に負担がかかる要因について
支持基底面内の重心の移り変わりと不安定
身体を動かすと大きな力がかかる
重量物を持つ姿勢で負担は変わる
ボディメカニクスが教えること
第10章 ボディメカニクスを理解するための実験
お辞儀をすると重心が移動する実験
支持基底面の広さと立位の安定を確認する実験
第11章 人-物-人の安全を考える
「人個人」の安全・不安全を考える
「人-物」の安全・不安全を考える
「人-人」の安全・不安全を考える
「人-物-人」の安全・不安全を考える
「人-自然現象」の安全・不安全を考える
第12章 看護の安全を考える
ヒヤリ・ハットとハインリッヒの法則
ヒューマンエラーとはどんなエラーか
リスクとは何か
フールプルーフとは何か
フェイルセーフとは何か
第13章 看護の事故防止対策について
看護師にとってのリスクとは
間違いやミスを防ぐにはどうしたらよいか
ヒューマンエラーを減らすいくつかの方法
看護のリスクをゼロに近づけるための訓練
看護安全のまとめ
第14章 医療用電子機器とフィードバック制御
電気と機械と情報技術が合体して医療電子機器となる
ME機器とはいったいなんなのか
ME機器の分類と用途
看護師とME機器と患者のフィードバック制御を考える
ME機器と安全を追求する人間工学について
第15章 バリアフリーとユニバーサルデザインと人間工学
バリアフリーとは
バリアフリーの具体例
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインの具体例
人間工学的デザインとの違いは?
おわりに
第1章 人間工学のあらまし
人間工学とは
看護の人間工学をハードウエア面からみる
看護の人間工学をソフトウエア面からみる
第2章 看護の創意・工夫とアイデア創出
看護とアイデア
看護における創意・工夫とKJ法
看護に関するKJ法グループ分けの手法と実践例
第3章 看護にかかわる五感とセンサについて
人間の五感と機械のセンサのはなし
看護における五感の役割について
五感を補う医療機器のはなし
第4章 観察とフィードバック
物事が発生する原因と結果について
看護とフィードバックについて考える
第5章 看護のフィードバック制御とフィードフォワード制御
看護におけるフィードバック制御とは
看護におけるフィードフォワード制御とは
第6章 人間の構造と看護姿勢・動作
人間の動きは回ることが基本
人間の骨格と筋肉
看護姿勢・動作と力学の関係
第7章 看護動作を理解するための物理・力学
看護と圧力について
看護と摩擦について
看護と作用・反作用の法則について
重力と質量の違いについて
重心線とは
看護における支持基底面と姿勢の安定について
看護における慣性について
第8章 負担軽減のための基礎力学
看護にかかわるテコのはなし
看護の負担がわかる力のモーメントのはなし
第9章 ボディメカニクスとは何か
身体に負担がかかる要因について
支持基底面内の重心の移り変わりと不安定
身体を動かすと大きな力がかかる
重量物を持つ姿勢で負担は変わる
ボディメカニクスが教えること
第10章 ボディメカニクスを理解するための実験
お辞儀をすると重心が移動する実験
支持基底面の広さと立位の安定を確認する実験
第11章 人-物-人の安全を考える
「人個人」の安全・不安全を考える
「人-物」の安全・不安全を考える
「人-人」の安全・不安全を考える
「人-物-人」の安全・不安全を考える
「人-自然現象」の安全・不安全を考える
第12章 看護の安全を考える
ヒヤリ・ハットとハインリッヒの法則
ヒューマンエラーとはどんなエラーか
リスクとは何か
フールプルーフとは何か
フェイルセーフとは何か
第13章 看護の事故防止対策について
看護師にとってのリスクとは
間違いやミスを防ぐにはどうしたらよいか
ヒューマンエラーを減らすいくつかの方法
看護のリスクをゼロに近づけるための訓練
看護安全のまとめ
第14章 医療用電子機器とフィードバック制御
電気と機械と情報技術が合体して医療電子機器となる
ME機器とはいったいなんなのか
ME機器の分類と用途
看護師とME機器と患者のフィードバック制御を考える
ME機器と安全を追求する人間工学について
第15章 バリアフリーとユニバーサルデザインと人間工学
バリアフリーとは
バリアフリーの具体例
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインの具体例
人間工学的デザインとの違いは?
おわりに
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序文・はじめに・あとがき 等
はじめに
1960年代、航空技術研究所(現・宇宙航空研究開発機構:JAXA)に勤務していた時期、所内計測部の研究員がアナログ・コンピュータを使った航空機の飛行運動模擬実験や飛行の安全性に関する研究発表を行ったので、その発表を聴講しました。この研究発表のなかで、人間工学という用語が使われ、初めて聴く新しい研究分野のように感じ深く印象に残っています。
その後、東京工業大学制御工学科に籍を移し、ロボットを人間のように滑らかに動かすため、人や生物の動きをサイバネティック・モーションと名付け、人の動作研究を始めました。この人の動きの解析結果は、日本人間工学会研究発表会で発表できることを知り、人の動作研究も人間工学の研究範ちゅうであることがわかりました。筆者にとってこの発表が人間工学にかかわる研究の最初の発表で、人の動きや動作、あるいは上記した安全にかかわる研究は、人間工学の範ちゅうであることを知ることができました。
人間工学という言葉は「工学」という二文字があるため、看護や福祉分野の方々には数式や物理、あるいはロボットのような機械とかかわる分野だと思われています。それは間違いで、人が生きるための生活空間にあるすべてのハードウエア・ソフトウエア(第1章参照)、情報とその伝達方法、観察(工学の計測)、人の五感が受け止める情報の感受性、言葉遣い……など世の中に存在するあらゆる物・事柄には人間工学がかかわっています。
これから学習する人間工学はどのようなことを学ぶのかわからないという声を聞きます。また、人間工学は看護に必要ないという疑問をもつ学生もいます。そこで、人間工学はありとあらゆるところにかかわり、それが大変役立っていることを本書序文で説明します。そして、何気なく過ごしている日常生活のなかで行われる人の行動の例を示し、そのなかに記述されている物や事柄などに注目します。その注目した物や事柄のすべてが人間工学にかかわっていることも説明します。
以下の文章は内容のすべてが人間工学とかかわりがあることを示す架空の例文です。文中の強調用語は人間工学に関係しているので、括弧内に人間工学にかかわる事項を簡単に示しました。
「ある人が風邪をひき熱があるので病院(自動診察受付、自動医療費支払い、待合室、手術室、ME機器、病棟、停電対策)を訪れます。病院を訪れたその人は治療(医療機器)を受けに来た1人の患者(着衣、履き物、鞄)です。医師の問診(言葉遣い)と診察(医療機器)を受け、単なる風邪なら風邪薬(錠剤を1回分ずつにまとめる一包化)を処方すれば熱は治ると医師(医療機器を扱う)が判断(判断ミスを犯さない)すれば風邪薬を処方(多種にわたる薬の取り扱い)し、入院(ベッド、枕、点滴)はしません。ところが、高熱で咳が止まらない(咳止め薬、注射、マスク)ようなら、入院し病室(室温、湿度、騒音)のベッド(ベッド高さ、背上げ機構)に終日横たわり安静にして、医師・看護師の回診と見回り(挨拶、言葉遣い、支援・介助の技)を待ちます。入院中に必要なら注射(穿刺の技、針の角度・速度)され、氷枕(サイズ、高さ)を使い、点滴(穿刺の技、針固定、薬液交換時の技)も始まります。病状の経過を観察(基本は視診、定量的にはME機器使用)します。看護師が見回りをする場合、患者の寝相が悪いと患者の体位変換(身体力学、ボディメカニクス)を行って寝ている患者の姿勢を正します」
人間工学は、多くの物や事柄にかかわっていることを理解するため、風邪を引いた患者を例に医師の診断を受ける様子を描いてみました。そのなかで人間工学にかかわる用語を強調したところ、ほとんどの物・事柄に人間工学がかかわっていることがわかりました。
本書を履修した後に、物事や事柄のどういうところが人間工学とかかわりがあるかを考えてみてください。そうすると身の回りの物(筆記用具、消しゴム、定規、はさみ、ナイフなど)、道具(のこぎり、ペンチ、ピンセット、ナイフ、ねじ回しなど)、本(読みやすい文章、感動する内容、読みやすい大きな活字、図表と本文の位置関係)などが使う人にとって「使いやすい」「使って疲れない」「使って楽しい」「使って楽になる」「使って安全である」「使って能率が上がる」「いつまでも使ってもあきない」などの感覚を受け止めることができるようなら、それは人間工学的によくできた製品(文具、道具、本など)といえます。
以上、説明したように人間工学は人間のために「安全」「安心」「安樂」を念頭において、「物を作る」「物を使う」「物や人を扱う」「言葉を交わす」「態度を示す」分野であると筆者は思っています。
本書は、初版で見受けられた読みにくい表現、図の説明が不十分な箇所を、誤解のないように修正・訂正し、説明を追加しました。
読者の皆さん自身の勉強部屋、台所、トイレ、テレビやテレビ映像録画機などをよくみると、人間工学的によく考えて作ったものばかりであることが実感できます。また、100円ショップを訪れると、そこは人間工学の宝庫のようにいろいろな商品が便利で使いやすいものであることがわかります。こうした商品を開発・製作した人たちは、人間工学をよく理解し、設計、製作した商品を世に送り出したに違いありません。
看護や介護の分野で頑張る皆さんは、応用範囲が広いこの人間工学をマスターし、医療機器や看護用具を新たに創造・開発し、また新たに負担の少ない看護動作の技を発見してください。ヒントになる負担軽減の簡単な技は、第8章、図8-12に示した力のモーメントの応用ですので参照してください。また、看護の安全を守る簡単な方法の1つは、131ページに示したABC法則です。
このように人間工学を考慮した医療機器や看護負担軽減のために物理の原理を応用した動作を患者支援・介助に役立てていただければ望外の喜びです。
2024 年10 月
小川 鑛一
1960年代、航空技術研究所(現・宇宙航空研究開発機構:JAXA)に勤務していた時期、所内計測部の研究員がアナログ・コンピュータを使った航空機の飛行運動模擬実験や飛行の安全性に関する研究発表を行ったので、その発表を聴講しました。この研究発表のなかで、人間工学という用語が使われ、初めて聴く新しい研究分野のように感じ深く印象に残っています。
その後、東京工業大学制御工学科に籍を移し、ロボットを人間のように滑らかに動かすため、人や生物の動きをサイバネティック・モーションと名付け、人の動作研究を始めました。この人の動きの解析結果は、日本人間工学会研究発表会で発表できることを知り、人の動作研究も人間工学の研究範ちゅうであることがわかりました。筆者にとってこの発表が人間工学にかかわる研究の最初の発表で、人の動きや動作、あるいは上記した安全にかかわる研究は、人間工学の範ちゅうであることを知ることができました。
人間工学という言葉は「工学」という二文字があるため、看護や福祉分野の方々には数式や物理、あるいはロボットのような機械とかかわる分野だと思われています。それは間違いで、人が生きるための生活空間にあるすべてのハードウエア・ソフトウエア(第1章参照)、情報とその伝達方法、観察(工学の計測)、人の五感が受け止める情報の感受性、言葉遣い……など世の中に存在するあらゆる物・事柄には人間工学がかかわっています。
これから学習する人間工学はどのようなことを学ぶのかわからないという声を聞きます。また、人間工学は看護に必要ないという疑問をもつ学生もいます。そこで、人間工学はありとあらゆるところにかかわり、それが大変役立っていることを本書序文で説明します。そして、何気なく過ごしている日常生活のなかで行われる人の行動の例を示し、そのなかに記述されている物や事柄などに注目します。その注目した物や事柄のすべてが人間工学にかかわっていることも説明します。
以下の文章は内容のすべてが人間工学とかかわりがあることを示す架空の例文です。文中の強調用語は人間工学に関係しているので、括弧内に人間工学にかかわる事項を簡単に示しました。
「ある人が風邪をひき熱があるので病院(自動診察受付、自動医療費支払い、待合室、手術室、ME機器、病棟、停電対策)を訪れます。病院を訪れたその人は治療(医療機器)を受けに来た1人の患者(着衣、履き物、鞄)です。医師の問診(言葉遣い)と診察(医療機器)を受け、単なる風邪なら風邪薬(錠剤を1回分ずつにまとめる一包化)を処方すれば熱は治ると医師(医療機器を扱う)が判断(判断ミスを犯さない)すれば風邪薬を処方(多種にわたる薬の取り扱い)し、入院(ベッド、枕、点滴)はしません。ところが、高熱で咳が止まらない(咳止め薬、注射、マスク)ようなら、入院し病室(室温、湿度、騒音)のベッド(ベッド高さ、背上げ機構)に終日横たわり安静にして、医師・看護師の回診と見回り(挨拶、言葉遣い、支援・介助の技)を待ちます。入院中に必要なら注射(穿刺の技、針の角度・速度)され、氷枕(サイズ、高さ)を使い、点滴(穿刺の技、針固定、薬液交換時の技)も始まります。病状の経過を観察(基本は視診、定量的にはME機器使用)します。看護師が見回りをする場合、患者の寝相が悪いと患者の体位変換(身体力学、ボディメカニクス)を行って寝ている患者の姿勢を正します」
人間工学は、多くの物や事柄にかかわっていることを理解するため、風邪を引いた患者を例に医師の診断を受ける様子を描いてみました。そのなかで人間工学にかかわる用語を強調したところ、ほとんどの物・事柄に人間工学がかかわっていることがわかりました。
本書を履修した後に、物事や事柄のどういうところが人間工学とかかわりがあるかを考えてみてください。そうすると身の回りの物(筆記用具、消しゴム、定規、はさみ、ナイフなど)、道具(のこぎり、ペンチ、ピンセット、ナイフ、ねじ回しなど)、本(読みやすい文章、感動する内容、読みやすい大きな活字、図表と本文の位置関係)などが使う人にとって「使いやすい」「使って疲れない」「使って楽しい」「使って楽になる」「使って安全である」「使って能率が上がる」「いつまでも使ってもあきない」などの感覚を受け止めることができるようなら、それは人間工学的によくできた製品(文具、道具、本など)といえます。
以上、説明したように人間工学は人間のために「安全」「安心」「安樂」を念頭において、「物を作る」「物を使う」「物や人を扱う」「言葉を交わす」「態度を示す」分野であると筆者は思っています。
本書は、初版で見受けられた読みにくい表現、図の説明が不十分な箇所を、誤解のないように修正・訂正し、説明を追加しました。
読者の皆さん自身の勉強部屋、台所、トイレ、テレビやテレビ映像録画機などをよくみると、人間工学的によく考えて作ったものばかりであることが実感できます。また、100円ショップを訪れると、そこは人間工学の宝庫のようにいろいろな商品が便利で使いやすいものであることがわかります。こうした商品を開発・製作した人たちは、人間工学をよく理解し、設計、製作した商品を世に送り出したに違いありません。
看護や介護の分野で頑張る皆さんは、応用範囲が広いこの人間工学をマスターし、医療機器や看護用具を新たに創造・開発し、また新たに負担の少ない看護動作の技を発見してください。ヒントになる負担軽減の簡単な技は、第8章、図8-12に示した力のモーメントの応用ですので参照してください。また、看護の安全を守る簡単な方法の1つは、131ページに示したABC法則です。
このように人間工学を考慮した医療機器や看護負担軽減のために物理の原理を応用した動作を患者支援・介助に役立てていただければ望外の喜びです。
2024 年10 月
小川 鑛一
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